目標は、「つぎに欲しくなる電気ケトル」
象印の正式な会社名は、「象印マホービン」。その現代版ともいえる電気ポットや電気ケトルは、私たちの原点に近い製品です。ただ、思い入れが強すぎると、肝心なお客さまの気持ちから遠ざかってしまうこともあります。「象印の製品だったら、保温機能にこだわらなくては」などと他にない機能を追求していった結果、シンプルさを好むお客さまに応える製品が手薄になっていたのです。
そこで今回は、すっかり電気ケトルに慣れたお客さまを想定して、「つぎに買うならどんなものがいい?」とあらためてシンプルに使うひとの目線に立って開発をスタート。いまは選んでいただけていなくても、つぎは必ず選びたくなる製品となるよう、カタチも中身もいちから開発することにしました。
注ぎ口に隠れていた不満とは?
まずはじめに取り組んだのは、いま電気ケトルを使っているお客さまの、リアルな日常を知りつくすこと。さまざまなアンケートやヒアリングを重ねるうち、「ほとんどの家が電気ケトルを出しっぱなし」というご家庭の様子が見えてきました。「ほこりよけに布巾をかぶせている」「使うまえに口先だけ洗う」。そんな使い方の裏に、“注ぎ口にほこりが入る”という不満が隠れていたんです。
電気ケトルにとって大事な機能は、「すぐに沸く」こと。シンプルなだけに、店頭にずらりと並ぶ製品のその機能には、ほとんど差がありません。けれど「清潔」は、すべてのひとにとって選ぶ価値のある特徴になるはず。注ぎ口にほこりよけのフタをつけることで、使うひとの手間をひとつへらす。これが、新しい製品開発の大きなポイントとなりました。
使いたいカタチと価格をめざして
「フタをつけるなら、どんなカタチにしようか?」。企画と開発、両スタッフの距離が近く、話しやすいのがこのチームの強みです。わざわざミーティングを設けなくても、デスクの横で「フタの開け方は?」「こんなのできたよ」とこまめにやりとり。ロックボタンとの連動や、開いたときのフタの角度など、いろんなスタッフのさまざまなアイデアが詰め込まれて、より良いカタチが整っていきました。
また、今回の新モデルにおけるもうひとつのテーマが、「価格を抑えること」。質の良さだけでなく、値段とのバランスがとれていることも、お客さまに選ばれる大事な条件です。前のモデルとにらめっこしつつ、どこかを変えられないかと徹底検証。部品数を限界まで少なくして製造コストを抑えた結果、軽量化にもつながる、というおまけもついてきました。
安全設計に、新しい安心感もプラス
もちろん、機能や部品を削ぎ落としても、一番大切な安心・安全を揺るがすわけにはいきません。「うっかり倒しても熱いお湯がこぼれにくい※2」「外側が熱くなりにくいから手を添えて注げる※1」「蒸気が少ないから家具の傷みや結露を防げる」など。これまでのモデル同様に、象印ならではの安全設計はしっかり継承。さらに今回、ロックを解除するとフタが連動して開くので、「お湯が出る状態」だとパッと見てわかる安心感もプラスできました。
こうして全体の設計が決まってからも、業界基準より厳しい象印オリジナルの試験をクリアするため、何度も試作を重ねては調整。お湯や蒸気のもれがないか、スイッチがスムーズに動作するかなど、ひとつひとつ確かめながら完成形に近づけていきました。
出しておきたくなるデザイン
ちなみに、開発スタッフが「くちばし」と呼んでいたフタ部分とあわせて、丸みのあるやさしいフォルムも、本製品のチャームポイントです。どことなく陶器のような雰囲気、ネイビーやベージュの落ち着いたカラーバリエーションなど。食卓に出しっぱなしでも、食事やお茶のシーンに温もりをもたらしてくれるデザインをめざしました。
設計を詰めていくうちに、デザイナーが考えたとおりのカタチを保てないことも多々あります。「少しだけ変えさせて」「ここは譲れません」といったやりとりを積み重ね、細かく調整していくことで、機能とデザインの“ちょうどいいところ”を見つけだしていくのです。
使いつづけてわかる良さを
企業としては「どんどん新しく買い替えて」とすすめるべきかもしれませんが、開発に携わった私たちとしては「親しみをもって、末長く使っていただきたい」という気持ちでいっぱいです。私たちが大切にしている安心・安全、使いやすさは、目に見えるものではありません。けれど、毎日何回も使うものとして、決しておろそかにできないものだと思っています。
長い間、なにごともなく使っていただき、そろそろ買い替えようかというときに、ふと「前の電気ケトル、買ってよかったな」「つぎもまた、象印にしておこうかな」と思ってもらえる。それが私たちの理想です。これからも、そんな理想を胸に、ずっと使いたくなる製品づくりに取り組んでいきます。
象印開発の
「ここだけの話」
「どんな難題に対しても前向きな人が多いから、
いいものをつくるために挑戦しよう、という意欲で開発がすすみますね」
黒河 賢哉 / 設計開発担当
「正直、これはムリかも…と思うこともあるけれど、
粘りづよい個々の努力とチームの連携で、それを乗りこえるのが快感です」
山元 伸悟 / 商品企画担当
所属部署・内容は取材当時(2021年10月)のものです。